「大人のための読書法」
「大人のための読書法」の著者の和田秀樹氏は精神科医で、自称「少なくとも量に関しては日本屈指の文筆家 」である。本書は、本の選び方や読書法にとどまらず、本以外の情報源の利用方法まで取り扱っており、読書法の本というよりは情報活用術の本と言える。齋藤孝氏の「三色ボールペン情報活用術」と同じカテゴリーに入れてもいいだろう。さらに、つくり手の視点から本の選び方を提案している部分が興味深い。
本書を貫く考えは、「目的やコストパフォーマンスを意識し、完全主義に陥らず、必要な部分だけを熟読する」ということに集約される。
和田流の本選びは、自分の目的に合っているかどうかをタイトルと目次で判断し、気になったものはとにかく買ってしまうというものだ。なぜなら、本を選ぶのに時間を費やすくらいなら、他のことに時間を使った方がいいから。本代をケチるべきではないというのは同感だ。本選びに限らず、時間単価が高いビジネスパーソンはこういったコストパフォーマンスを意識しなければならない。
和田氏がこの本で勧める読書法は、必要な部分だけを読む「一部熟読法」である。目的を意識し、アウトプットすることを前提に、必要な情報をストックとして蓄積する。ストックする際は、立体的な見方(複眼思考)を持てるように、少数意見にもあたる。
日本では、物事をきちんと完璧にやり遂げる完全主義が尊ばれているが、その一方で完全主義者は、失敗をおそれて行動が遅くなったり、結局行動を起こさなかったりという欠点をあわせ持っている。読書も同じだ。本の頭から最後まで順番に読まなければならないという考えは、ひとまず捨てた方がよい。スピードが求められる現在のビジネス社会では、完全主義者であることのデメリットは大きい。実は私も完全主義者の傾向がある。スピード重視の外資系の環境にもまれて80点主義になりつつあるが、読書方法をはじめ、改善の余地はいくらでもある。
もちろん、買った本がハズレだということはあり得る。しかしどんな本でも、使える情報が少しくらい入っているものだ。それが手に入ったら、本に投資した価値はあったと考えるべきだろう。齋藤孝氏の三色方式のことばで言うと、緑の線がひければ十分と割り切ることだ。ハズレをおそれて読まないことのデメリットの方が遙かに大きい。
本を読んでストックした情報は、活用して初めて意味を持つ。活用できるかたちに情報を加工するには、アウトプットして使ってみるのが一番である。使えば使うほど、自分なりに情報が整理でき、さらに活用できるようになる。活用しない情報は、持っていないに等しい。
アウトプットの例が「書くこと」である。ブログでも日記でもなんでもいいから、書くことによって入手した情報を活用すると、さらに調べなければならないことが見えくる。これが新たな読書の手がかりになる。このサイクルがうまく回るようになると、その分野についての知識が雪だるま式に増えていく。齋藤孝氏のいう「暗黙知の海」に魚をたくさん入れておけば、関心の網に引っかかる魚も多くなる。
つくり手(著者、出版社)の心理を本選びに活かそうという提案が興味深い。同じ入門書でも、単に「~~入門」と書いてある本より、「世界一やさしい」「高校生でもわかる」というタイトルの方が、未知の分野を勉強する本として適当である。タイトルで読者層を明確に限定することによって、用語や表現が制約されるという意識を著者が強く持つからだ。あるいは、著者が言いたいことの大部分は第一章に書いてあるとか、著者の最新の考えは一番後ろにまとめてあることが多いとか、つくり手として大量の本を出版してきた筆者ならではのノウハウが披露されている。第一章と最後を読めばよいというのは、本選びや一部熟読に役立つ。
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