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2005年10月10日

関心のフック

私は大学で理論物理を専攻したのだが、その一分野である宇宙論に「ジーンズ不安定性」という概念がある。宇宙初期の重力的揺らぎがどのようにして成長し、銀河などの構造を形成するに至ったかを説明するためのものだ。ジーンズ長以下の大きさの揺らぎは自然に消滅し、それ以上の揺らぎだけが成長する。ジーンズ長を直径とする球体の質量をジーンズ質量と呼び、それ以上の質量を持つ物体が重力成長により形成されるという。

同じような性質は、現代社会を支える様々な無形物にも見られる。その一つがお金である。ある一定以上の資金を持っている人や会社には、その資金を運用することによってさらにお金が集まってくる。お金を持っていない人は、低金利の預貯金程度でちまちまと増やすほかない。

以上は、「相対論的宇宙論」(佐藤文隆・松田卓也)に出てくる話であるが、情報や知識にも同じような性質があるようだ。新しい分野を勉強するとき、最初は知識や情報の少なくて苦労する。それにくじけずに勉強していくと、参考文献や関連資料などを通じていろいろな情報が集まってくるようになり、知識が雪だるま式に蓄積されるようになる。

このとき、ただ漫然と情報に接していては、学習スピードを十分に上げることができない。ポイントは問題意識を常に持つことだ。問題意識を持っていれば、新聞の書評欄や広告、書店の本棚、インターネットなどで、従来なら見逃していた本や記事が目に留まるようになってくる。

これは私の経験だが、製品のGUIの改善点を米国本社の開発者に説明しようと考えていたとき、会社にあった「日経バイト」の「UI変曲点」という特集記事を見つけて参考にしたことがある。「日経バイト」を定期購読していることすら知らず、たまたま雑誌架の前を通り過ぎたときに目に入った。問題意識を持っていたので、普段なら見過ごしていた情報が目に留まったのだろう。

セブン・イレブン会長兼CEOの鈴木敏文氏は、「関心のフック」とこれを表現している。

私は別に意識して(相手の共感を得るためのたとえ話を)集めているわけではなく、人の話を聞いたり、車内でラジオをつけっぱなしにしていたりするとき、頭の中のフック(釣り針)に無意識のうちに引っかかってくる。重要なのは、日ごろから「関心のフック」を研ぎ澄ませておくことです。 (「プレジデント」2005.8.1号)

また、齋藤孝氏は「三色ボールペン情報活用術」の中で次のようなことを述べている。人間の脳には、これまでに蓄積してきた経験的な知の蓄積、いわば「暗黙知の海」がある。情報と出合ったとき、感性の網を暗黙知の海にくぐらせて、情報を自分のなかに取り込むのが、情報活用の第一歩である。

問題意識は、関心のフックや感性の網、あるいはアンテナと言い換えることができるだろう。ひとつだけでなく、いくつかの関心のフックを持っていることが、情報収集に欠かせない。ひとつの関心のフックに引っかかった情報から新たな疑問や関心が生まれ、フックの数がどんどん増えていく。それにつれて、引っかかる情報が飛躍的に増加していく。「情報や知識のジーンズ不安定性」は、こういうメカニズムで説明できる。


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