英語コミュニケーションの基礎は日本語力
英語でうまくコミュニケーションするためには、まず日本語の力を2つの点で鍛える必要がある。1つは、伝えたいことをきちんと日本語で構築できるようにすること。もう1つは、別の日本語表現を即座に引き出せる「言い換え力」を身につけることだ。
英語がいくら流暢に話せても、内容が論理的でなかったりあいまいだったりすると、伝えたいことは伝わらない。キーメッセージが明確か、キーメッセージを裏付ける材料がそろっているか、論理的に話を構築できているかなどだ。猪口邦子氏がNHKの「英語でしゃべらナイト」(2004年5月31日)に出演したとき、次のようなことを言っていた。
- 英語で交渉事をする時の大切なポイントはpower of argument(立論の力)である。論理立て(立論)をしっかりすること。
- まず日本語で考え抜く。日本語でできないことは英語でもできない。
私たち日本人は日本語を母語とし、日本語で思考している。英語のメールを書いたり英語で会話したりしているときでも、頭の中は日本語で動いている。言いたいことを日本語できちんと表現できるようにするのが、英語に限らず全てのコミュニケーションの基本だ。
ちなみに、英語で会話しているときは英語で思考しているという人をテレビや本で見かけるが、そのレベルに達するのは容易ではない。簡単な日常会話でそれができても、ビジネスレベルの複雑な内容を英語で思考して会話できるようになるには、相当な訓練と英語漬けの環境が必要だろう。私はそのレベルに全然達していないので、想像することしかできないが。
2つめの「言い換え力」は、言いたいことが明確になのに、それを表現する英語が出てこないときに役立つ。自分の英語の語彙にあることばで日本語の方を言い換えるのだ。単語ひとつの言い換えにとどまらない。ひとつのセンテンスを英語でうまく表現できないときは、日本語のセンテンス自体を作りかえてしまう。私の英語力のかなりの部分を補っているのが、この言い換え力だ。
言い換え力は、齋藤孝氏がコミュニケーションの重要な技のひとつとして挙げているもので、相手の言ったことを別のことばに自分で置き換える力だ。抽象的な内容を具体的に言い換える、あるいは具体的なことを抽象的な概念で言い換える。ユーザから要件を聞き出す場合、「つまり、それは~~~ということですね」と、相手の言ったことを自分のことばで言い換えて理解を確かめるのがそのいい例だ。抽象と具体の往復運動がうまくできると会話の技術が向上すると齋藤氏は書いている(参考文献)。英語の会話では、この往復運動や言い換えを自分の頭の中でやるわけだ。
英語の基本的なトレーニングはもちろん欠かせない。しかし同時に日本語力を磨かなければ、せっかく身につけた英語力も宝の持ち腐れになってしまう。もうすぐ小学校で英語を教えるようになるらしいが、国語をおろそかにしないで欲しいものだ。ほかの科目でも、教科書や試験問題を読んで理解するために国語の力が必要である。子どものころ、国語の授業はあまり好きではなかったが、いまになってその重要性を痛感している。
(参考文献)
齋藤孝「コミュニケーション力」(岩波書店)
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