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2005年11月26日

英語の冠詞と日本語の助詞

英語の冠詞の使い分けは、日本人の英語学習者にとって最難関のひとつだ。英語の文法解説書や参考書を読んでも、わかったようでわからない。いざ使うときになるとどちらを使えばいいのか迷う。

養老孟司氏の「バカの壁」に、英語の定冠詞と日本語の助詞が同じ役割を演じているという部分があり、興味深く読んだ。簡単にまとめると、以下のような内容だ。

「an apple」は共通概念としてのリンゴであり、色も形も大きさも決まっていない。何も決まっていないから不定冠詞がつく。「the apple」はおのおのが異なる実体としてのリンゴを指す。特定の色合いや形、そして大きさを持っている。

日本語は、「は」と「が」の助詞の使い分けでこの2つを違いを表現し分けている。「おじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは山へ芝刈りに行き・・・」という文を考えると、最初の「おじいさんとおばあさんが」は共通概念の「おじいさんとおばあさん」を表している。これにより読者は自分の頭の中におじいさんとおばあさんのイメージを描く。次の「おじいさんは」は、読者が思い描いた特定の実体である「おじいさん」を表している。

日本語の助詞「は」と「が」の使い分けは、大野晋氏の「日本語練習帳」でも取り上げられている。

「は」には、「問題(Topic)を設定して下にその答えが来ると予約する」という働きがある。「話題を前から頭の中にあることとしてそこに置き、それについての新しい情報が下に来るぞという約束をする」のである。「花は咲いていた」は、「花」という情報がすでに頭の中にあり、それに対して「咲いていた」という新情報を付け加えている。これは定冠詞の働きに対応していると考えることができる。

「が」には、「現象文を作る」という働きがあると大野氏は書いている。「が」の上の言葉は、新しい現象を表している。「花が咲いていた」は、気がついてみたら「花が・・・」という現象が生じていたという新発見について述べているというのが大野氏の説明である。これは不定冠詞と対になる用法だろう。

東京大学の酒井邦嘉氏によると、人間の頭の中には普遍的な文法があり、個別の言語はパラメータの違いにすぎないという(参考記事)。英語では冠詞を使い分け、いっぽう日本語では助詞を使い分けるというやり方は、パラメータの違いの一例といえるそうだ。したがって、翻訳という行為は、単に言葉を置き換えるだけではだめだ。その背後にある普遍的な文法に基づいた意味をきちんと理解して咀嚼し、正しいパラメータに書き換えるサ行が必要である。

参考記事
脳は文法を知っている
http://www.mayq.net/sakai.html

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