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2006年9月の7件の記事

2006年9月21日

プレゼンテーション資料は脇役

数年前にビジネススクールの短期講座で、プレゼンテーションとビジネスライティングを勉強した。どちらも非常に役立つ内容だった。

2つの講座に共通していたのは、キーメッセージ(Main Point)が一番大切ということである。何を伝えたいかをまずきちんと整理すること。これが、説得力のある文章やプレゼンテーションの大前提だ。文章やプレゼンテーションは、それをうまく伝える手段にすぎない。ところが、資料の説明に終始し、聴いていて退屈なプレゼンテーションをよく見かける。また、プレゼンテーションやライティングの講座と銘打って、小手先の技術のみを扱っているものもある。

私が受講したプレゼンテーション講座では、まず資料を何も使わず、手ぶらで発表する。アイコンタクトやゼスチャーなどを、この段階で学ぶ。これができたあと、PowerPointで資料を作り、それを使って発表する。その資料も段階を踏んで作る。まず、話の流れをわかりやすくする程度に文字だけを書いた資料を使う。次に、説明を補強したりわかりやすくしたりするために図表を追加する。つまり、プレゼンテーションは発表者の話が主役であり、資料はそれを補佐する脇役にすぎないということを教えている。

ややもすると、アニメーションを多用した見栄えのよいプレゼンテーション資料が、聴衆の受けがよいいい資料と思われがちだ。説明文を長々と書き連ねた文字数が非常に多いスライドももよく見かける。こういった資料をスクリーンに投影すると、聴衆の関心がそちらに行ってしまい、発表者の話に集中してくれない。以前書いたように(末尾の関連記事)、資料を配ってしまうのも、聞き手の関心を発表者の話から逸らしてしまうので、私は嫌いである。

発表者の話が主役だとすると、脇役であるPowerPoint資料は、話の流れがわかるようにキーワードを箇条書きにしたものでもよい。図表やグラフも、シンプルなもので十分だ。アニメーションを使わなければならないケースはまれだ。アニメーションがついたスライドを作るのは、手間と時間がかかる。それに手間暇かけるよりも、ストーリーや話し方を練ったり練習したりする方に時間をかけるべきだ。

データの流れや業務フローを時系列に説明したいときは、アニメーションを使いたくなるかもしれない。しかしこれも、矢印で流れを書いておいて、手や腕で指し示しながら、説明した方が、遙かにアピール度が高い。身体を動かすということで、発表者の存在を際だたせるゼスチャーのひとつと考えることができる。

アニメーションを使わざるを得ないのは、数百人クラスの会場で大画面に投影する場合だ。画面が大きいので、手や腕を指示棒代わりに使えない。かといって、レーザーポインタを使うのは逆効果である。点が小さくて非常に見づらいし、赤い点がぶるぶると振動すると聴衆がイライラする。普通の指示棒を使うときも、あまり振り回さないようするのが原則だ。レーザーポインタでこれを実現するのは難しい。ちょっとした手の動きが、スクリーン上で大きく増幅されてしまう。

(関連記事)
講演資料を事前に配布するべきか
http://raven.air-nifty.com/night/2005/12/post_2ab2.html

(そのほかのプレゼンテーション関連記事)
効果的なプレゼンとデモのヒント
http://raven.air-nifty.com/night/2005/10/cognos_performa_c0e2.html

聴衆をひきつける講演タイトルの付け方
http://raven.air-nifty.com/night/2005/11/post_8dc5.html

講演時間の注意点
http://raven.air-nifty.com/night/2005/11/post_23ed.html

ThinkPadのプレゼンテーション・ディレクター
http://raven.air-nifty.com/night/2006/05/thinkpad_eb97.html

プレゼンテーションとウナギ屋のタレ
http://raven.air-nifty.com/night/2006/07/__e148.html

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2006年9月12日

「させていただきます」の普及と敬意低減の法則

「~させていただきます」という敬語表現をよく耳にするようになった。「ご説明させていただきます」「ご提案させていただきます」「次のスライドに移らせていただきます」などだ。「移らせていただきます」「遅らせていただきます」という誤用もときどきある。

東京外語大教授の井上史雄氏は、「~せていただく」が普及している背景を「敬意低減の法則」で説明している。敬意低減の法則とは、「ことばの丁寧さの度合いが、使われているうちに以前より下がり、乱暴に感じられる」ことだ。日本語の二人称代名詞がその典型である。「貴様」は、中世では武家の書面で使われる格調高いことばだったのが、19世紀初めに対等の相手への話しことばになり、現在は罵りことばにまで落ちている。

「~ていただく」の前身は、江戸中期に使われ始めた「~てもらう」である。このことばの敬意が徐々にすり減って、「~せてもらいます」では失礼な感じがするようになった。それを避けるために「~せていただく」が登場したという。

また、「~せていただく」は全ての動詞につけられる便利な言葉である。「食べる」を「召し上がる」「いただく」、「行く」を「おいでになる」「うかがう」と使い分けるのは面倒だ。「~せていただく」で、この複雑さを避けることができる。このことも、広く使われるようになった要因だ。

さらに時代の変化も影響している。尊敬語や謙譲語は相手との関係を「上下」でとらえていた。身分制度が崩壊して全ての人が平等という考えが広まるにつれ、上下関係の敬語表現から、聞き手との親疎関係に応じて使い分ける「左右敬語」の時代になった。「~せていただく」は、左右敬語の代表である。

とはいえ、従来の敬語がそうであったように、過剰に使うのは禁物だ。私は、「~させていただきます」をたくさん使う相手には、「いちいち許可を求めなくてよい」と言い返したくなる。「させていただきます」が気になるのは私だけではないようで、グローバルナレッジネットワークの田中淳子氏は「速効! SEのためのコミュニケーション実践塾」
で、好ましくない日本語表現の最初に「させていただきます」を挙げている。

最初に挙げた例なら、シンプルに「ご説明します」「ご提案します」「次のスライドに移ります」と言えばよい。敬意が足りないように感じて居心地が悪いなら、「説明いたします」「提案いたします」「次のスライドをご覧ください」という表現がある。便利だからといってひとつの言葉ですませていると、日本語の力がどんどん落ちる。

2009年9月14日追記
「ご説明します」の「ご(御)」の用法について別記事でまとめた。

「ご説明します」の「ご」は謙譲語である
http://raven.air-nifty.com/night/2009/09/post-1c5e.html

(参考文献)
NHK「日本語なるほど塾」テキスト「近ごろ気になる敬語の話」(井上史雄、2004年11月)
「その敬語では恥をかく!」(井上文雄、PHPハンドブック)

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2006年9月11日

「言った、言わない」は根絶できない

「『言った、言わない』がどうしてなくならないか」という大木豊成氏のブログ(参考記事)に、その原因は記憶力ではなく、人間関係であるというコメントを書いた。「言った、言わない」をなくすために、議事録を書いたりメールで確認したりと、みんなが工夫をしている。しかし人間は、自分に都合のいいように物事を解釈するものだ。特に利害が対立している場合に、その傾向が顕著に現れる。人間関係が良好であれば、多少行き違いや勘違いがあったとしても、協力して解決するだろう。

議事録を否定するわけではない。しかし、議事録を書くという行為自体に、作成者の主観のフィルターがかかっている。自分に都合のいいように解釈して、議事録を残すことができる。当然、議事録を作成したあとは全参加者の合意をとるわけだが、そのときには問題にならなくても、あとになって「実はそういうつもりじゃなかった」ということはある。

公正中立であるはずのマスメディア(娯楽系やゴシップ系は除く)であっても、同じ事物を見聞きした複数のメディアが、全く異なる基調の記事を掲載することがしょっちゅうある。ソニー・コンピュータエンタテインメント久多良木社長の9月6日の会見を報じた記事がそうだ。

リチウムイオン電池のリコール問題や、青色半導体レーザー用チップの生産遅れによるPS3出荷遅延を引き合いに出して、記者たちがソニーの技術力低下を問いただした。それに対する久多良木氏の回答を各紙はこう伝えている。

久多良木SCE社長 「ソニーの力落ちている」 グループに不協和音
(日本経済新聞 9月7日朝刊)

「(ソニーが部品の量産を)できると言ったからSCEは出荷計画を発表したが、できないと言うことは何か能力が欠けているのだろう」と語った。 また「本当はソニー担当者が(記者会見に)来るべきだが来ていないと不満をにじませ、「ソニーの物作りの力が落ちているのではと問われれば、きょうの時点ではその通りと言うしかない」と述べた。

【PS3続報】久多良木氏,「出荷遅れの経緯」「Cellの現状」「ソニーの技術力低下」を語る【訂正あり】
日経エレクトロニクス
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060906/120881/

Liイオン電池の回収問題が明らかになった直後ということもあり,会見では「ソニー・グループの技術力が低下している象徴なのではないか」という質問が相次いだ。久多良木氏は,そもそもイノベーション(技術革新)にはリスクがつきものであり,今回の青紫色半導体レーザのような未開拓領域の技術開発が滞ったことを技術力の低下とされることは心外だとしつつも,「『やはり(低下した)ね』ではなく,『何とか乗り切ったね』と言われるためには,(今回掲げた目標を達成するという)結果を出すしかない」と現場を鼓舞した。

【詳報:PS3量産遅れ】「リスクを取らなければイノベーションはない」と久多良木氏
(ITpro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060906/247387/?ST=newtech&P=1

記者会見の会場で,「これでまた,ソニーの技術力を疑う風潮が強まるのではないか」との質問が相次いだが,久多良木氏は,「ソニー全体のことに言及する立場にはない」と前置きした上で,「言葉で説明するより,実績で示すしかない」と締めくくった。

「プレステ3」欧州発売を延期、部品の量産化遅れる
(読売新聞ホームページ)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20060906it14.htm

レーザーダイオード量産が遅れたことは、ソニーの技術力が低下している表れではないかとの指摘に、久多良木社長は「何かしら能力がないと言われれば、その通りかもしれない」と述べた。

日経新聞は、ソニーの技術力が低下していると久多良木氏が語ったとしている。いっぽう日経エレクトロニクスは、それは心外と述べたという内容である。全く正反対だ。

こうなると、どちらが正しいかを知るには、実際のやりとりの録音を全部聴くしかない。ビジネスの現場でも、同じことを聴いた複数の人が、それぞれ別の解釈をすることがよくある。かといって、白黒はっきりさせるために録音しようものなら、一気に関係が悪化する。録音するという行為は、相手を信用していないというのとほとんど同義だからだ。

人間関係を良好にすればよいと言っても、ビジネスに利害関係は切っても切り離せないので、「言った、言わない」をなくすことは原理的に不可能である。もちろん、議事録などの記録を残して逐次確認する努力を欠かしてはいけない。しかし、「言った、言わない」が必ず出てくることを前提に、心の準備やリスクマネジメントをおこなうのが現実的だろう。


(参考記事)
言った、言わない(「走れ!プロジェクトマネージャー!」)
http://blogs.itmedia.co.jp/tooki/2006/09/post_56e3.html

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2006年9月10日

Windows Vistaのプレゼンテーション支援機能

Windows Vistaの新機能「プレゼンテーションの設定」を紹介する記事がITmediaに出ている(参考記事)。プレゼンテーションに最適な設定を保存しておき、切り替えて使用できるとのこと。キーボードやマウスをしばらく操作しなくてもPCがスタンバイモードに入らないようにしたり、聴衆に見られて恥ずかしくない専用の壁紙に切り替えたりといったことができる。

これは、IBM(レノボ)のプレゼンテーション・ディレクターの機能そのものだ。OSがここまで高機能になると、付属ユーティリティで差別化を図ろうとするPCベンダは正直つらいだろう。特にThinkPadは、IBM時代からThink Vantageという戦略のもと、付属ソフトで差別化を図ってきた。しかし、どんなものにでも改良の余地はある。各ベンダ、特にレノボの次の一手に期待したい。

(参考記事)
「これは便利」なVistaの「パワポモード」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/05/news061.html

(本ブログの関連記事)
ThinkPadのプレゼンテーション・ディレクター
http://raven.air-nifty.com/night/2006/05/thinkpad_eb97.html

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2006年9月 6日

殿様問題

ビジネス文書で相手の名前に「殿」をつけるか「様」をつけるか。これを「殿様問題」と言うらしい(参考記事)。結論から先に書くと、定説はないようだ。つまり、どちらを使っても間違いではない。私は「様」派だ。

以前は「殿」派だった。というのも、大学を出て就職した大手コンピュータメーカの導入教育で、そう仕込まれたからだ。その会社は、社内文書・社外文書ともに、おそらく今でも「殿」を標準としている。メールの1行目しかり、レターの宛名しかり。その会社からもらう文書は「殿」だ。

転職してしばらくも「殿」を使っていた。転職先は外資系で、いろいろな会社の人間が集まってきている。大企業なら必ずある文書標準というものも存在せず、皆が自分の流儀でやっていた。

あるとき、顧客への障害報告書を営業を交えてレビューしていたとき、「殿」書きの私の文書を見て、「これは『様』にするのが常識だ」と、営業本部長に指摘された。「殿」が普通だと思っていた私には、青天の霹靂だった。ちなみに、その営業本部長はIBM出身である。あらためて「広辞苑」を読むと、「『様』よりも敬意が軽く、」と解説している。なるほど、お詫び文書に不適切なわけだ。

(参考記事)
「殿」と「様」の使い分け
http://nako.cocolog-nifty.com/nakolog/2004/04/post_25.html

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2006年9月 5日

ATOK 2006のキーボード操作

昨日の記事でATOK 2006のチュートリアル「ATOK 2006操作ガイド」を紹介した。これで覚えたキーボード操作の技を2つ紹介する。

1つめは連想変換のグループ表示。連想変換は、入力した言葉の類語や関連表現を候補表示する機能である。「ありがとう」に対して「お手数をおかけしました」や「ありがたくお受けいたします」といった候補を表示できるから、表現の幅を広げるのにうってつけだ。連想変換の候補は、「『感謝』の挨拶文例」「『感謝』に対する類語」といったグループに分かれていて、Tabキーで各グループの先頭候補をすばやく表示できることが「操作ガイド」に出てきた。候補を探すのが楽になった。これまではスペースバーを何回も押して、目的の候補を表示していた。

もうひとつは変換候補の並び替え方法で、特に人名入力で有効だ。人名には、「公一」「浩一」「浩市」という同音表現が多い。以前から、先頭文字と末尾文字を固定した変換ができることは知っていた。たとえば、先頭文字を「浩」で固定して候補を絞り込むことができる。これまでは候補表示ウインドウのマウス操作でやっていたので面倒だった。これがCtlr + PageUp/PageDownのキー操作で可能なことをチュートリアルで初めて知った。キーボードから手を離さなくてよいので、入力効率がよい。

ATOK 2006のレビュー記事は数多い。2つほど挙げておく。

(参考記事)正しく、そしてより効率よく──さらにかしこくなった「ATOK 2006」を試す
http://www.itmedia.co.jp/pcupdate/articles/0601/23/news041_2.html

ATOKを多くのプロが支持するそのワケは?──ジャストシステムATOK 2006 for Windows [電子辞典セット]
http://review.japan.zdnet.com/software/justsystem-atok-2006-for-windows-dictionary/editors/20096999.html


(本ブログの関連記事)
ATOK 2006の小技
http://raven.air-nifty.com/night/2006/09/atok_2006_d349.html

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2006年9月 4日

ATOK 2006の小技

今使っているIMEは、ATOK 2006。初めてのATOKはATOK 15だったと思う。その前はエーアイソフトのWXGだった。強力なカスタマイズ機能が特徴で、自分の手になじむように設定を変更できるすばらしいIMEだったが、残念ながら開発中止となってしまった。

ATOKの変換効率の高さは言うまでもない。それに加えて最近のATOKは、変換効率以外の部分で使い勝手を大きく改善している。ただ、あまりに多機能になりすぎて、便利な機能を知らないままの人が多いのではないだろうか。私もその1人だ。

最近気がついたのが、自動的に英字入力モードになる機能だ。ローマ字入力モードのまま「http」とタイプすると、「hっtp」という意味のない文字列になる。ところが、続けてコロン(:)をタイプすると、「http:」と自動的に英字に変換され、さらに英字入力モードに自動的に切り替わる。あとは、URLの残りを続けて入力すればよい。最後にEnterキーを押すと、ローマ字入力モードに戻る。これを知らなかった私は、URLをブラウザのアドレス欄に入力するとき、いちいちIMEをオフにしていた。http:の他にあるかもしれない。

ATOK 2006は日付入力機能が充実している。「きょう」と入力して変換すると、「2006/09/04」や「2006年9月4日」、「平成18年9月4日(月)」という候補が出てくる。「きのう」や「あした」も同様だ。ここまではATOK 2006の製品紹介に出ていることなので私も知っていたが、もうひとつ便利な機能があるのを、ベム氏のブログとホームページで知った(参考記事)。「20060904」と入力したときも、「2006/09/04」「2006年9月4日」などの複数の日付形式が候補に現れる。

ATOK 2006は、おそらくATOKで初めてチュートリアルが付いたバージョンだ。Flashを使用したアプリケーションで、基本的な変換から応用編や便利な機能の使い方まで、実際にタイピングしながら覚えることができる。ATOK 2006の一番の目玉は、実はこのチュートリアルではないかと思う。私自身、初めて覚えた操作や機能がいくつもあった。ATOK歴の長い人も、一度やってみる価値がある。

(参考記事)
[ACT]ATOK2006でACTを使う
http://d.hatena.ne.jp/actbemu/20060813/p1

ATOK2006でACTを使う
http://hp.vector.co.jp/authors/VA002116/azik/act_atok2006.html

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