ビジネスメールのインラインコメントは是か非か
メールの返信には2種類ある。ひとつはOutlookやOutlook Expressが採用している方法で、相手のメールの上に元のメールの件名、差出人、そして「Original Message」などの行を挟んで、自分のメールを書くやりかた。相手のメールと自分の書いたものを完全に分離できる。もうひとつは「インラインコメント」で、相手のメールの中に自分の意見を書き込んでいくもの。どの部分に対して返答を述べているか一目瞭然というメリットがある。パソコン通信のころはインラインコメント方法が一般的だった。
どちらがよいかは意見の分かれるところだが、ビジネスメールでインラインコメントは使うべきでないと私は考えている。読み手に負担を強いる、書き手都合のやり方だからだ。
インラインコメントを書く側は楽である。相手のメールのこの部分にはこういう返事を、この部分にはこれをと、思いつくままに書けばよい。会話しているのと同じ気分で書ける。しかし、インラインコメントでのやりとりが続くと、以前のやりとりが判別不能になってしまう。インラインコメントを書く場合は、相手のメールの行頭に「>」などの引用記号を付けるのが普通だ。やりとりが続くと、引用記号が何個も追加されていって、かつメールソフトが行の途中で適当に改行してしまうなどして、誰がどの意見を書いたのか読み解くのがほぼ不可能になる。こんなメールを転送されたり途中からCCに付け加えられたりしても、議論の経緯が全くつかめない。
インラインコメントのもうひとつの欠点は、論点が曖昧になったり脱線しやすかったりすることだ。PCの画面では情報が画一化されてしまい、すべてが同じように見える。フォントや色などで文字を修飾できないプレーンテキストのメールではそれが顕著だ。メールに限らずビジネス文書では、重要なものとそうでないものを明確に分けて書くようにする心がけが欠かせない。重要なものは前の方に書いたり下線を付けたりするし、参考程度の情報は注釈や別紙にする。相手の議論の流れに沿って自分の意見を書いていくインラインコメントでは、自分の意見をだらだらと書き連ねた出来の悪いビジネス文書が簡単にできあがる。
言葉尻をとらえた無意味なやりとりになりやすいという欠点もある。私の周りには、「これは~~なんでしょうかねえ」「~のような気がします」という、ひとりごとのような文をインラインコメントでしょっちゅう書いて送ってくる人がいる。こういったところに生真面目に返答していると、話がどんどん脱線していってしまう。
私はパソコン通信の経験が長かったから、インラインコメント形式に慣れていて、Outlookの返信メールの形式はとまどいがあった。しかし現在は、インラインコメントをほとんど使わない。相手が読みやすいように配慮したメールを書こうとすると、インラインコメントは必要ない。非常に短いメールに対して、1回でやりとりが終わってしまうような非常に短い返信をする場合にインラインでコメントすることがある程度だ。
相手のメールに複数の論点があり、それぞれに自分の意見を述べるときは、相手の意見を集約した見出しをつける。そして見出しの行頭に「●」などの記号を添えて、文章の構造が一目でわかるようにする。上で述べたひとりごとのような箇所は、あえて無視する。もし相手が何か言ってきたら返答すればよい。何も言ってこないということは、本当にひとりごとだったんだと考えるようにしている。
やむを得ずインラインコメントをする場合に気をつけているのは、引用部分と自分の返信を明確に分けること。引用部分との間に空行を必ず入れるし、HTMLメールやリッチテキストメールならフォントの色を変える。引用行と返信行を連続して書いて送ってくる人や、引用行が5行~10行で返信が1行ということもある。どの行が相手の返信なのか、じっくり読まないとわからず、ストレスがたまる。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
そもそもインラインがいいんだけど、その使い方が下手なヤツが多いから、インラインじゃないほうが結果としていいという感じですね。
それを最近ではインラインはマナー違反だと、おかしなヤツが現れるので困ったものです。
投稿: 通りすがり | 2009年5月15日 16時28分
はじめまして。過去の記事へのコメント、失礼いたします。
私、20数年間、IT業界で仕事をしてきたものです。
私自身もメールへのインラインコメントについては少なからず問題がある、と常日頃から感じています。
メールでのやりとりはリアルタイムでの双方向通信ではないのですから、相手方の結論、もしくは意図を充分汲み取らない途中でのインラインコメントは時として失礼にあたり、相手の態度を硬化させる原因にもなる、と、考えます。
ですが、ビジネスメールには、少なくない確率で意見調整の余地のある、「柔らかい」事案について記されている場合が多々あり、そういった内容のメールについては、発信者側がインラインコメントを入れやすい文脈、段落を心がけるべきである、と考えています。
過去の経験では、過度に文学的表現を含む、往々にして代名詞を多用するメールにインラインコメントを入れると、意思疎通に齟齬が生じることがままありますね。
勿論、論点を外したり、相手の意図を理解せずに「擬似的な会話の延長」で行うインラインコメントは論外だと思っています。
失礼ながら本文を引用させていただきますが、「PCの画面では情報が画一化されてしまい、すべてが同じように見える。」については、まったく同意見です。
これを防ぐため、私自身は、ビジネス上のメールを作製する際、尾括式で、それも結論(もしくは提案)の内容ごとにナンバリングをし、インラインコメントで返されても論点がぶれないようにすることを心がけます。
また、相手の冗長なメールに対してどうしてもインラインコメントを入れても論点がずれない、もしくは正確にこちらの意図が伝わる、と判断した場合には、(時として論点をずらすために意図的に行う場合もありますが)返信の冒頭に「インラインコメントをお許しください」と、一文を加える事を心がけてます。
長文、ならびに勝手な論理を展開してしまい、失礼いたしました。
投稿: rosi | 2009年6月25日 14時58分
そういえば、ブログへのコメントは
インラインコメントじゃないほうが多いですよね。
投稿: とおりすが | 2009年7月31日 13時11分
初めまして。
1年以上も前の記事にコメントも遅すぎるかと思いますが、
記事に関連して思い当たることがあったのでコメントさせて頂きます。
インラインコメントにより、文中のどの部分へのコメントか分かるのと、
お互いに文章を読んだり考えたりする手間が省けるというメリットがあると思います。
しかし、インラインを多用する人と会話していると
「何だこの人、私の話は理解してもらってるのかな?」
という感覚に陥ることがあります。
インラインコメントの使用について
・使う場合 → 該当箇所周辺の事柄についてコメント
・使わない場合 → 自分の言葉で要点をまとめ、それについてコメントする
という違いがあるのが原因かなと思いました。
面と点の違いでしょうか。
ピンポイントで論旨に応えるのは注意力が必要で、
注意力の無い人がインライン無しで回答すると答えがブレます。
しかし、インラインだと論旨を理解したのかが測れず、軌道修正がしづらい。
会話のキャッチボールをする上で、
相手が分かったのかどうか確認するのは手間ですし気を使います。
インラインコメントを多用する人と確実に意思疎通をしようと思えば、
相手の曖昧な認識に対して、いちいち気を遣って質問しなければなりません。
その辺りの気遣いの不足を文章に感じてしまうから、
インラインコメントへの不快感に繋がるのかなと思いました。
インラインを使うときの注意として、
共通認識が出来ている箇所について使うとか、
自信がなければ「自分はこう理解しているが」と添えるとか、
そういった心遣いが必要かなと思います。
投稿: buchi | 2010年3月19日 15時20分