社会と会社の中央集権主義と分権主義
http://ascii.jp/elem/000/000/151/151210/index-4.html
野口悠紀雄が、遠藤諭(アスキー総合研究所所長)との対談でこう語っている。アメリカの経済システムは市場中心の分権的な仕組みで、日本は中央集権的。ITの歴史は中央集権(メインフレーム)から分散処理(クライアントサーバシステム)への転換だった。従って、分散処理のアメリカとITは相性がよい。そして未だに中央集権的な日本は、最新のIT技術をうまく活用できない。
社会についてはこの通りかもしれないが、会社(企業)については全く逆であろう。アメリカのIT企業に身を置いている自分には、「日経コンピュータ」2008.6.15号で山下徹(NTTデータ )が語った次の違いがしっくり来る。
日本企業は総じてITを使うのに慣れている。特に現場レベルでは世界屈指の水準。しかし 一方で、日本企業ではITで効果を出しにくい。「現場主義」や「改善」と言った日本企業に特有の強みが、ITにとってはマイナスに働いているのではないか。ITは「改革」に向くが、「改善」は苦手。本当にITの効果を出すなら、BPRのような「改革」が必要。
アメリカ企業では、経営層が決めた方針に従って、会社全体が一気に変化を起こす。その変化についていけない社員は会社を去り、新しい方針に賛同するものが新しく参加する。そして、そういった大きな変化を起こすためにITが積極的に活用される。会社の基幹システムのように中央集権的な部分が大きく変更される。ERPによる全体最適などはその好例だ。
日本企業では、ドラスティックな改革はあまり好まれない。改善や改良レベルの小さな変化が積み重なり、徐々に方針が変わっていく。そして、そういった改善や改良は、現場の意見を十分に吸い上げ、現場の同意を得つつ実行されるのが常だろう。いきおい部分最適が多くなる。
この違いの背景にあるイデオロギーの違いが、「プレジデント」2005.7.4号の「市場原理主義が日本で根付かないもう一つの理由」で伊丹敬之(一橋大学大学院商学科教授)が指摘した「所属と参加」である。
アメリカは、国家成立の経緯から「参加」が基本的なイデオロギーだった。現在でも移民が世界中からアメリカに「参加」しに来る。当然、企業へも「参加」しているという意識が強く、報酬や方針などの面でその企業への参加が報われなければ退出すればよいと考える。
これに対して日本の基本イデオロギーは「所属」である。生まれたときから日本という国家に「所属」している。企業にも所属している。日本人は会社に「就職」するのではなく、「就社」すると揶揄されることがあるが、これも所属イデオロギーを別の言葉で言い表している。そして会社への所属が最優先であるから、それを阻害しない小さな変化の積み重ねで会社をよい方向に変えていこうとする。
したがって、アメリカをお手本としてITを活用しようとしても、いまのままではうまくいかない。我々自身が考え方を変えるか、所属イデオロギーに適合するITの活用方法を編み出すしかないだろう。
(参考記事)
日本のITは20年間進化していない──野口悠紀雄が語る
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