マニュアルを超えた顧客対応
2009年2月17日放送の「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK)で、羽田空港の主任航空管制官・堀井不二夫氏が取り上げられた。パイロットの気持ちに寄り添いながら指示を出す彼の仕事に、多くのパイロットたちが信頼を寄せる。「共に、空を飛ぶ」というキーワードを番組は使っていた。
例えば、十分離れていてニアミスの恐れもないので、本来は何も告げる必要のない近くの航空機の存在をひと言添える。これによって、「あなたをしっかり見ています」というサインを送っているのだ。これはマニュアルを超えた対応である。若い航空管制官が、堀井氏の背中を見てそのスタイルを学んでいた。
「日経コンピュータ」が毎年行っている顧客満足度調査で、マニュアルを超えた対応が必要とされている(2008.8.15号)。顧客満足度を向上させる取り組みが各社に浸透した結果、通り一遍の顧客対応は標準化・マニュアル化されて、そこでは差が付かなくなったし、顧客はそれ以上を常に求める。
顧客の心をつなぎ止めるにはどうすればよいのか。顧客と接する担当者一人ひとりが本当に顧客の身になった対応をするしかない。(中略)マニュアルや顧客の想定を超えるところから、次のCS向上運動は始まる。
マニュアルを超えるということは、あらかじめ想定して体系化することもできないということである。一人ひとりがその場の状況に応じてで創造的に対応する必要がある。社員教育でこれを身につけさせることができるだろうか。難しい課題だが、堀井氏の姿を見ていると、OJTで密に指導すれば可能であるとも思える。
しかしその一方で、個人の資質はどうしても外せない要素であるとも思う。番組が追いかけていた若手航空管制官は、自分から堀井氏に指導を仰いでいた。こういう積極性は必須であろう。さらに、自分の考えをしっかり持ちつつも、新しいことを吸収する頭の柔らかさも必要だ。そして創造力。マニュアルを超えた対応も、ひとたび定式化されると陳腐化してしまう。その次を常に模索し、問題意識を持って作り出していく姿勢が欠かせない。
マニュアルを超えた対応ということは、言い換えればルールを破っているとも言える。「日経コンピュータ」の記事で、ある自治体で起きたサーバのハードディスク障害のエピソードが紹介されていた。
東北地方のK市の情報システム担当者は国産大手メーカーの「マニュアル外」の対応に惚れ込んだ。
(中略)
そのときなんとメーカー技術者がサーバーを横倒しにした。するとサーバーは無事に起動、データの救出にも成功して事なきを得た。「さすがプロ。マニュアル外の技を持っている」と担当者は称賛する。
どの程度勝算があってやったのだろうか。うまくいったからいいようなものの、二次障害を起こしていたら、とんでもない無茶をやったと責められるかもしれない。勝てば官軍という面はある。マニュアルを超えた対応は、常に未知の新しい領域である。多少の失敗を責めるか、それとも今回はうまくいかなかったがいい取り組みだったと褒めるか。上司にもそれに応じた素養が必要なのかもしれない。
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