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2009年6月15日

「拙速」なアメリカ流

「後付け」「対症療法」というと、やってはならないことというニュアンスをだいたいの日本人が持っているだろう。物事を進める前に、想定される事態を十分に考慮に入れ、水も漏らさぬ計画を立てた上で実行すべしという意識が日本のビジネスマンや企業には強い。いったんやり始めたあとで問題が出ることは許されない。

シリコンバレーのIT企業はまるで反対だ。スピードが最優先である。問題が出たら、そのときに対処すればよい。やってみないと分からないこともあるので、走りながら考える。失敗したら、それは経験を蓄積したと考え、次に活かす。いざとなれば、裁判で決着すればよい。会社のやり方が自分に合わなくなったら転職すればよい。会社というコミュニティから離脱するだけだ。

結果として、アメリカのやり方は初動が速い。開始時のコストは少なくてすむ。しかし問題が出ると、それを解決するためのコスト(訴訟も含めて)があとからかかってくる。なかなか結果が出なければ、傷が深くならないうちに撤退する。「拙速」である。

日本流は初期コストがかなりかかる。そして立ち上がりは遅い。初期にかかったコストを回収するために、安易に撤退することはできない。会社に所属しているから、そう簡単に辞めるわけにはいかない。定年まで勤め上げれば高額の退職金がもらえる(はず)。粘り強く・忍耐強く・細く長くという、日本で美徳とされるやり方が求められる。

日本で販売代理店を立ち上げるときには、とにかく準備と資料が必要だ。価格表やカタログ、製品マニュアルは当然だが、販売マニュアル、トラブルシューティングマニュアル、製品マニュアルに出ていないような技術仕様など、ありとあらゆるものを用意してようやく、じゃあ売りましょうということになる。書籍である、当該分野のことならその本を見れば何でも分かる。学校の教科書といってもいい。

アメリカの販売パートナーだったら、必要なものはその都度担当営業に要求したりテレカンをやったりして、とにかく素早く動いて結果を出そうとするはずだ。しかし、走りながら考えるアメリカ流では、情報共有に難がある。必要の都度メールや電話で確認しているから、情報がまとまらない。まとめる人もいない。そこで出てくるのがポータルだったり検索エンジンである。社内に散逸している情報を一元的に閲覧したり探し出したりできるようにする後付けの仕組みだ。

もちろんこれは非常に単純化した見方であるし、どちらが優れていると言うつもりはない。何事も両極端はダメだ。周りの状況によってアメリカ流にスピードに比重を置いたほうがうまく行く場合もあるし、日本流に慎重にやった方が効果的な場合もある。中間のどこかに解がある。しかもその解は不定なのである。それでも、一方のやり方しか知らずに無意識にそれをやってしまうのと、両方のやり方を知ったうえで最適なやり方を考え出すのと、変化の激しい世の中にどちらが向いているかは明らかである。

ちなみに「拙速」はネガティブな文脈で使われることが多い。この文章でアメリカ流儀を「拙速」と書いたのはその意図からだ。しかし広辞苑に「兵は拙速をとうとぶ」という用例が出ているし、孫子の「巧遅は拙速に如しかず」という言葉もある。必ずしも忌むべき言葉ではないのである。

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