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2009年10月の3件の記事

2009年10月 8日

該非判定パラメータシートの「省令」「別表第一」とは何か?(輸出関連法令の構造)

該非判定パラメータシートを書き始めると、「省令」や「別表」といった言葉がたくさん出てきて戸惑う。いったいこれらはどの法令のどの部分を指しているのか。

どの法律でも同じだと思うが、法律→政令→省令と階層を下るに従って、より具体的に規定するようになっている。パラメータシートを書くうえで最低限おさえておかなければいけないのは、「輸出令」と「外為令」という2つの政令。そして経済産業省の省令である「貨物等省令」だ。これらは略称であり、それぞれの正式名称は「輸出貿易管理令」「外国為替令」「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」である。法令の条文は経済産業省・安全保障貿易管理ホームページ法令データ提供システムで参照できる。なお引用した内容が、法改正などで執筆時と変わっているものがあるので注意してもらいたい。

最初に要点をまとめる。

・輸出令は「貨物」を規制し、外為令は「技術」を規制する。
・「別表第一」は輸出令の別表第一であり、貨物を定義している。
・「別表」は外為令の別表であり、技術を定義している。プログラムも技術である。
・それぞれの詳細仕様は貨物等省令で定義されている。

細かく見ていこう。まず輸出令の第一条はこうだ。

第一条  外国為替及び外国貿易法 (以下「法」という。)第四十八条第一項 に規定する政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第一中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。

この政令が「貨物」を規定することと、詳細は別表第一に定めるということが書いてある。そして別表第一を見ると、九項の下欄は「全地域」であり、中欄は以下の通りである。

次に掲げる貨物であつて、経済産業省令で定める仕様のもの (一) 伝送通信装置又はその部分品若しくは附属品(一五の項の中欄に掲げるものを除く。) (以下略)

伝送装置関連であり、その仕様は経済産業省令を見よと述べている。ちなみに第一条の条文を読むと、外為法第四十八条は詳細を政令で規定するとしていることがうかがえ、実際、第四十八条は「貨物」に関する条文であり、「政令で定めるところにより」と書いてある。

第四十八条  国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

次に、技術の規制である外為令第十七条は次のとおりである。

法第二十五条第一項第一号 に規定する政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造又は使用に係る技術を特定の地域において提供することを目的とする取引は、別表中欄に掲げる技術を同表下欄に掲げる地域において提供することを目的とする取引とする。

やはり、この政令では技術を規制することと、詳細は別表で定めるとしている。なお以下のように、外為法第二十五条第一項第一号は「技術」を規制する条文である。

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造又は使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の地域において提供することを目的とする取引

外為令の別表で伝送装置に関連するものは九項である。

(一) 輸出貿易管理令別表第一の九の項の中欄に掲げる貨物の設計、製造又は使用に係る技術であつて、経済産業省令で定めるもの

つまり貨物(ハードウェア)である伝送装置を使うために必要な技術(プログラムを含む)はここで規制されるわけである。輸出令別表第一と同じく、仕様は省令を見よと述べている。

輸出令と外為令が指し示している経済産業省令が貨物等省令である。第八条と第二十一条がそれぞれ貨物と技術の仕様を規定する条項である。

第八条  輸出令 別表第一の九の項の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。 (以下略)

第二十一条  外為令 別表の九の項(一)の経済産業省令で定める技術は、次のいずれかに該当するものとする。 (以下略)

IT機器のほとんどはソフトウェア(OSやファームウェア)をハードウェアにインストールして機能を実現している。したがってそれを輸出するときには、ハードウェア(貨物)とソフトウェア(技術)の両方についてパラメータシートを記入し、輸出許可を得なければならない。このことは、弁護士法人リバーシティ法律事務所の「ロボットの輸出規制」という記事でも解説されている。

たとえばプログラムがインストールされたロボットを外国に輸出する場合には、原則としてロボットという「貨物」の輸出の許可とプログラムという「技術」を提供することの許可の双方が必要だということがあげられます。

(関連ページ)

経済産業省・安全保障貿易管理ホームページ
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/

法令データ提供システム
http://www.e-gov.go.jp/

ロボットの輸出規制
http://rclo.jp/blog/report/cat03/post_136.html

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日本の輸出規制と該非判定パラメータシート

前回の記事では、アメリカの輸出規制で使われる略語、とくにECCNについて書いた。この記事では「該非判定パラメータシート」について説明する。なおリンク先の内容が、法改正などで執筆時と変わっているものがあるので注意してもらいたい。

■該非判定パラメータシート

「該非判定パラメータシート」は、日本の輸出規制に照らし合わせて、当該製品が輸出規制品に該当するか非該当であるかを判定するためのチェックシートである。たとえば、高速電子計算機をテロ支援国に輸出してしまうと、高性能ミサイルや核反応炉の設計を支援してしまいかねない。これを防ぐのが輸出規制の目的のひとつである。

輸出規制品目に該当するものは輸出できないと誤解している人をたまに見かける。輸出規制は、輸出するものが規制品目に該当しているかどうかを明確にし、輸出先が適切であるかどうかを確認・管理するものである。たとえば輸出規制品目に該当する高度技術でも、アメリカに輸出する場合は特に問題なく許可が下りるだろう(注)。同じものを北朝鮮に輸出する場合は不許可となる可能性が大だ。

このような誤解のため、「非該当」になるようにパラメータシートを記入してしまう人もいるようだ。パラメータシートは製品の技術仕様を記入するものだから、正確に書かなければ虚偽申告になってしまう。

パラメータシートを書けるのは製品仕様に精通した技術者である。法務担当者は書き方のアドバイスをしてくれるかもしれないが、内容は技術部門もしくはプロダクトマネジメント部門が書くことになるだろう。法務部門では書けない内容である。

(注)アメリカに輸出するときに許可が不要というわけではないことに注意。許可が不要な特例を除き、輸出には当局の許可が必要である。特例は法令で定めてあり、特例に該当するかどうかを判定する様式がパラメータシートにある。

■ECCNの品目

さて、アメリカの本社からECCNは既に手に入っているとする。ECCNに該当する品目は「The Commerce Control List」のSupplement No. 1に書いてある。たとえばネットワーク機器のECCNが5A991bだとする。最初の桁「5」がカテゴリ番号である。

Category 5 (Part 1) - Telecommunications(U.S. Government Printing Office)
http://www.access.gpo.gov/bis/ear/pdf/ccl5-pt1.pdf

カテゴリ5は「TELECOMMUNICATIONS AND “INFORMATION SECURITY”」(通信と”情報セキュリティ”)。5A991は「Telecommunication equipment, not controlled by 5A001」(通信装置であって、5A001 で規制されないもの)である。5A991bの「b」は5A991のb項であり、次のように書いてある。

Telecommunication transmission equipment and systems, and specially designed components and accessories therefor, having any of the following characteristics, functions or features:
伝送通信装置及びシステム、並びにこれらのために特別に設計した部分品及び付属品であって、次のいずれかの特性、機能又は特徴を有するもの:

(注)翻訳はhttp://www009.upp.so-net.ne.jp/kgm1_ear/から引用

■日本の法令

上で調べたECCNが日本の法令で何に該当するかを調べる。IT機器はおおむね次のページの「8 コンピュータ」か「9 通信関連」に入っている。

輸出貿易管理令別表第1(Cグループ)(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/sinsa-unyo/gaihihanntei-tejyun/yusyutsu-betsu1/y7-15.htm

5A991bは次の分類に該当する。

別表第一の項9(1)
輸出許可品目名:伝送通信装置
省令:8条一、8条二

(注)「別表第一」「省令」については別途説明する。

■該非判定パラメータシート

パラメータシートは財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)が販売している。上で調べた輸出許可品目に対応するパラメータシートを購入する。「8 コンピュータ」は「パラメータシート<コンピュータ>」を、「9 通信関連」は「パラメータシート<通信・情報セキュリティ>」を使う。

書籍・出版物(CISTEC)
http://www.cistec.or.jp/publication/index.html

ようやくパラメータシートまでたどり着いた。このあとは製品仕様を調べて、それぞれの項目にチェックマーク(レもしくは×)を付けていく。カタログで分からない仕様がほとんどである。本社の開発部署やプロダクトマネージャから頑張って聞き出すしかない。

(関連ページ)

EARのダウンロードページ(U.S. Government Printing Office)
http://www.access.gpo.gov/bis/ear/ear_data.html

経済産業省・安全保障貿易管理ホームページ
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/

財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)
http://www.cistec.or.jp/

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アメリカの輸出規則(基礎中の基礎知識)

不要になったり故障したりした製品をアメリカの本社に送り返すとき、「輸出」をすることになる。ベンダーに勤めていると、運送会社や販売代理店から「該非判定パラメータシート」を要求される。私が独学で勉強した範囲で、必要最小限の知識をまとめてみようと思う。間違いが含まれているかもしれないので、ダブルチェックしながら読んで欲しい。少なくともいろいろな情報のとっかかりにはなると思う。自分で調べることで輸出管理についての理解も深まる。

アメリカのベンダーの場合、製造したものを最初に輸出するのはアメリカの本社である。したがってアメリカの輸出規則をおさえておかなければいけない。略語がいくつか出てくるから、まずそれを覚えよう。在日米国大使館商務部のWeb「アメリカからの輸入ビジネス情報」がわかりやすい。

■EAR
米国輸出規則 - Export Administration Regulations (EAR)

■CCL
規制品目リスト(CCL: Commerce Control List)。EAR対象品目のなかでもセンシティブなもの。

■ECCN
CCLにリストされている品目には、規制品目番号(ECCN: Export Control Classification Number)がついている。

■EAR99
CCLに載っていないEAR対象品目は、EAR99というカテゴリーに分類される。商務省のライセンスなしで輸出可能な場合が多くあるが、輸出先が制裁国やテロ支援国の場合はライセンスが必要な場合あり。

■ECCNの分類(一部)

カテゴリー4  コンピュータ
カテゴリー5 通信・暗号
全リストは http://www.access.gpo.gov/bis/ear/ear_data.html の「Category ~~」

グループ(抜粋)
A 装置、組み立て品、部品
D ソフトウェア

たとえば、コンピュータ機器なら4A994、伝送機器なら5A991、ソフトウェア製品なら5D002といったECCNを持っている。

製品のECCN番号は、本社が輸出ライセンスを商務省から受けたときにドキュメントをもらって管理しているはずだ。本社のどの部署の誰が輸出管理を担当しているかをなんとかして見つけ出す必要がある。

ECCNがわかったら、次に日本の法令に基づいて「該非判定パラメータシート」を書く。これは次の記事で説明する。

(参考)

U.S. Export Control   米国の輸出規制
http://www009.upp.so-net.ne.jp/kgm1_ear/

輸出貿易管理(貿易アドバイザーが整理する貿易実務用語の知識体系)
http://blog.goo.ne.jp/bizloop/e/9162c6ac84c9186024f16d9feb9df001

アメリカ商務省のBureau of Industry and Security
http://www.bis.doc.gov/policiesandregulations/index.htm

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