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2010年2月の3件の記事

2010年2月24日

佐々木俊尚氏『ひと月で15万字書く私の方法』の原理・原則

Evernoteというツールを知ったのは、新聞で読んだ『ひと月で15万字書く私の方法』(佐々木俊尚)の書評だった。この本は、EvernoteのほかにもdeliciousやWZ EDITORなどのツールの使い方がていねいに解説していて、これを読めば誰でも佐々木氏と同じように文章を書けそうな気がする。しかし一番大切なのは個別のツールの使い方ではなく、その背後にある原理・原則である。ツールは手段にすぎない。達成しようとしている目的を意識していないと、あっというまに手段が自己目的化してしまう。一定レベルの成果を安定して出すには、原理・原則をきちんと押さえておく必要がある。

佐々木氏の文章作成フレームワークの肝は、以下の3点である。

  • テーマに沿って情報を集約する。
  • 集めた情報を構造化する。
  • そこから物語を構築する。

集約の手段として佐々木氏が活用している手法がタギングである。Evernoteやdeliciousは、タグが使え、現時点でもっとも使い勝手がよいツールに過ぎない。PCが普及する前ば、袋ファイルやバインダーで資料を分類していた。佐々木氏も以前はそうだっただろう。PCでの作業が主流になっても、つい最近まではフォルダ(ディレクトリ)でファイルを整理していた。タグはその進化版である。ひとつの情報に複数のタグを付けることができる。これは今までになかった利点である。

情報の構造化にあたっては、現状・課題・仮説の3つの切り口を使う。システムの提案書でも常套手段だ。現在どういう業務が行われているかを把握したうえで、そこにある課題を明らかにし、どうすれば解決できるかの仮説を立てる。もちろんシステム提案書であれば、その仮説を実現する手段も具体的に記述し、その結果を予測するわけである。現状・課題・仮説の切り口はさまざまな場面で使える。こういった標準的な切り口を常に意識していると、ただ漫然と考えているときよりも情報が整理・構造化される。これが構造化の原理・原則である。

何か文章を書くということは、単なる事実の羅列ではなく、何らかの主張を行うということである。構造化した情報から物語を構築するのは、客観的事実に立脚しつつ、自分の意見を明確にしていくプロセスである。トラブル報告書であってもそれは変わらない。事実をもとに仮説を立て、どうすれば解決するか・これからどんな調査を行うかを説明して納得していただく。物語という言葉はあまりそぐわないが、自分の意見を主張するという点では同じだ。佐々木氏のフレームワークでは、構造化に使った3点の切り口に加えて、現状の分析・仮説の分析・今後の戦略の3つを加えて流れを作り出す。これも原理・原則である。

情報の構造化と物語の構築は、以前なら情報カードやポストイットに言葉を書き込み、いろいろに並べ替えて構想を練るという方法が行われていた。メモリツリー(マインドマップ)やアウトラインプロセッサはそれに変わるもので、並べ替えが非常に簡単に行える。

意見は十分な根拠に基づいて主張しなければならない。根拠が不足していると、自分勝手な意見と思われ、相手は首を縦に振らない。事実ばかりを並べてしまったら、「で、どうしたいの?」と相手を困惑させることになる。両者のバランスが重要だ。そして、自分の意見とそうでないものを明確に分けることも必須である。このバランス取りと区分けが物語構築の原理・原則といえる。

新聞記者やジャーナリストに限らず、他人の意見を自分のものであるかのように書くのは御法度だ。しかし意識していないと、その境界が曖昧になりがちでもある。主観と客観の区別や配分に、佐々木氏はWZ EDITORの色づけ機能を使っている。斎藤孝氏の三色方式と似ている。引用部分の行頭に「>」を付けて、ピンクで表示する。自分のコメントを書いた行は「#」を付加して、緑で表示する。ピンク(客観・事実・他人の意見)と緑(主観・自分の意見)をきちんと区別し、バランスよく配分する。

ここまで書いた自分の文章を読み返してみると、どうにも論拠に乏しい。それは情報収集と集約のプロセスが十分でないからである。本を読んだだけで書くとこうなる。もしこのブログをブラッシュアップする場合は、佐々木氏の本から該当箇所を引用したり、提案書やトラブル報告書の例を挙げたり、文章作成について説いた本について言及したりすることが必要だろう。

(本ブログの関連記事)
「分けて考える」という原理・原則
http://raven.air-nifty.com/night/2007/02/post_ca1a.html

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2010年2月15日

山形大学が"文章の基礎"を必修に

2010年2月10日放送のフジテレビ「めざましテレビ」で、山形大学が"文章の基礎"を必修セミナーに指定したことを報じていた。日本文学専攻・山本陽史教授に電話で話を聞き、セミナーのテキスト「なせば成る」の一部を映像で見せていた。

学生が書いた論文に「~しちゃう」「なにげに」「まじで」「やばい」等の話し言葉が使われている。それは読書不足が原因だろう。書き言葉との区別が付いていない。書き言葉の硬い文章を敬遠しているようだと山本教授は話していた。

番組で紹介していた文章の7原則は次の通りだ。

1. ひとつの文は30~40字。ひとつの文にひとつのことだけを書く。「が」「けれども」を安易に使わない。
2. 主語・述語、修飾語・被修飾語は近づける。
3. 複数ある修飾語は長いものを先に。
4. 意味的につながりやすい語と語は分離する。
5. 多義な語、曖昧な表現は避ける。
6. 読点「、」はなるべく少なくする。
7. 話し言葉を持ち込まない。

そのほかに、授業ノートの取り方や、インターネットでの情報収集で陥りやすい誤りなどもセミナーで教えている。

読書不足、特に硬い文章に慣れていないというのは、たぶんその通りなのだろう。しかし、この7原則がきちんと身についていないのは、今の若者だけではない。1の「が」の用法や2・3・4は、本多勝一「日本語の作文技術」に出てくる。文の長さについては、木下是雄「理科系の作文技術」に「仕事の文章は、短く、短くと心がけて書くべきである」とある。本多氏の流儀にならうと6はあまりよいガイドラインではないが、読点について意識することは重要だ。

「日本語の作文技術」は1976年、「理科系の作文技術」は1981年の出版。30年以上も前である。つまりそのころから書き言葉の文章をきちんと書けない人が多く、こういった書籍を出す意味があったことを意味する。そしてその状況は今でも変わっていない。私がふだん目にするビジネス文書(メールや報告書)にも、2・3・4・6に関して問題のあるものがよくある。

授業ノートの取り方は、一見するとこんなことまで大学で教えるのかと怪訝に思うかもしれないが、私はいい取り組みだと思う。山形大学のセミナーでは、コーネル大学が開発した「コーネル・メソッド」に言及している。こういった学ぶための技術は、もっと体系的に教えるようにしたほうがよい。先人の編み出した技術の上に新しい技術を積み重ねることで、さらに高いところへ到達できる。

できれば、その技術で効果的に学べるのはなぜかという本質まで掘り下げた方がよいだろう。そうしないと単なる小手先のテクニックに終わってしまい、応用が利かない。山本教授が言ったように、一方的に教えられるのではなく、自分で調整していろいろなことを身につけることが大切である。

The Cornell Note-taking System(コーネル大学Learning Strategies Center)
http://lsc.sas.cornell.edu/Sidebars/Study_Skills_Resources/cornellsystem.pdf

Study Skills Resources(コーネル大学Learning Strategies Center)
http://lsc.sas.cornell.edu/Sidebars/Study_Skills_Resources/SKResources.html

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2010年2月 3日

ファイル一括処理にWindowsコマンドプロンプトは御法度

結論から先に書くと、ファイルの一括処理、とくに不要ファイルの削除にコマンドプロンプト(DOSプロンプト)を使うのはきわめて危険である。PowerShellを使うべきである。理由は、コマンドプロンプトのコマンド群は8.3形式のファイル名を使って処理をしているからである。バッチファイルを作るときに意図しなかったファイル名が処理対象になることがある。

たとえば、testfile000、testfile001、・・・、testfile199と200個のファイルを作ってみる。そして「del *5*」を実行する。ファイル名に「5」が含まれるもの38個が削除されるかというと、実際には127個も削除されてしまう。「dir *5*」でも同様である。
(注)数は環境によって異なるかもしれない。

なぜこんなことが起きるかというと、ロングファイル名に「5」が入っていないのに、8.3形式ファイル名に「5」が含まれるファイルが大量に存在するからである。8.3形式ファイル名は「dir/x」コマンドで表示できる。以下のように、testfile190~testfile199は8.3形式名に「5」が含まれており、「del *5*」で消えてしまう。

2010/02/03  13:18                 1 TED533~1     testfile190
2010/02/03  13:18                 1 TED543~1     testfile191
2010/02/03  13:18                 1 TED553~1     testfile192
2010/02/03  13:18                 1 TED563~1     testfile193
2010/02/03  13:18                 1 TED573~1     testfile194
2010/02/03  13:18                 1 TED583~1     testfile195
2010/02/03  13:18                 1 TED593~1     testfile196
2010/02/03  13:18                 1 TED5A3~1     testfile197
2010/02/03  13:18                 1 TED5B3~1     testfile198
2010/02/03  13:18                 1 TED5C3~1     testfile199

PowerShellは新しく開発されただけあって、ロングファイル名で処理をしている。上記のようなおかしな、そして危険なことは起きない。コマンドプロンプトに比べると処理速度が遅いのが玉に瑕であるが、結果の正当性のほうが大事である。

さらにRemove-Itemコマンドレット(エイリアスdel)の-whatifオプションを使えば、どのファイルが処理対象かを事前にチェックできる。制御構造もif文、switch文、foreach文などが使えて、コマンドプロンプトのバッチファイルと比べものにならないくらい便利である。

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