カテゴリー「仕事術」の80件の記事

2010年9月22日

実は速読法が身についていたらしい

フォトリーディングとかレバレッジリーディングとか、速読法の本が書店に並んでいたり、Webで話題になっていたりする。こんなことができたらいいなと思っていたら、実はできていたらしい。

目の動きや脳の活性化をトレーニングする速読法もあるようだが、突き詰めると速読法のポイントは次の2点だ。

  • 本を読む目的を明確にする。
  • 必要な情報を拾い出す。

新しい技術が関わるトラブル対応では、「そのトラブルを解決しなければいけない」という目的があり、そのトラブルを解決するのに必要な情報、それだけを得られればよい。その技術のすべてを理解/習得する必要はない。Googleで検索し、検索結果を拾い読みし、これは役に立ちそうだと思った記事を読み、そこから得た知識やキーワードでさらに検索する。これを何回も繰り返す。これは速読にほかならない。

要するに、情報を得る媒体として書籍を使っているかWebの情報を使っているかの違いでしかない。コンピュータ技術ならWebでかなりの情報が手に入るから、書籍の速読が必要な場面は少ないだろう。逆に会計や経営などは書籍でないとうまくいかないかもしれない。

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2010年2月24日

佐々木俊尚氏『ひと月で15万字書く私の方法』の原理・原則

Evernoteというツールを知ったのは、新聞で読んだ『ひと月で15万字書く私の方法』(佐々木俊尚)の書評だった。この本は、EvernoteのほかにもdeliciousやWZ EDITORなどのツールの使い方がていねいに解説していて、これを読めば誰でも佐々木氏と同じように文章を書けそうな気がする。しかし一番大切なのは個別のツールの使い方ではなく、その背後にある原理・原則である。ツールは手段にすぎない。達成しようとしている目的を意識していないと、あっというまに手段が自己目的化してしまう。一定レベルの成果を安定して出すには、原理・原則をきちんと押さえておく必要がある。

佐々木氏の文章作成フレームワークの肝は、以下の3点である。

  • テーマに沿って情報を集約する。
  • 集めた情報を構造化する。
  • そこから物語を構築する。

集約の手段として佐々木氏が活用している手法がタギングである。Evernoteやdeliciousは、タグが使え、現時点でもっとも使い勝手がよいツールに過ぎない。PCが普及する前ば、袋ファイルやバインダーで資料を分類していた。佐々木氏も以前はそうだっただろう。PCでの作業が主流になっても、つい最近まではフォルダ(ディレクトリ)でファイルを整理していた。タグはその進化版である。ひとつの情報に複数のタグを付けることができる。これは今までになかった利点である。

情報の構造化にあたっては、現状・課題・仮説の3つの切り口を使う。システムの提案書でも常套手段だ。現在どういう業務が行われているかを把握したうえで、そこにある課題を明らかにし、どうすれば解決できるかの仮説を立てる。もちろんシステム提案書であれば、その仮説を実現する手段も具体的に記述し、その結果を予測するわけである。現状・課題・仮説の切り口はさまざまな場面で使える。こういった標準的な切り口を常に意識していると、ただ漫然と考えているときよりも情報が整理・構造化される。これが構造化の原理・原則である。

何か文章を書くということは、単なる事実の羅列ではなく、何らかの主張を行うということである。構造化した情報から物語を構築するのは、客観的事実に立脚しつつ、自分の意見を明確にしていくプロセスである。トラブル報告書であってもそれは変わらない。事実をもとに仮説を立て、どうすれば解決するか・これからどんな調査を行うかを説明して納得していただく。物語という言葉はあまりそぐわないが、自分の意見を主張するという点では同じだ。佐々木氏のフレームワークでは、構造化に使った3点の切り口に加えて、現状の分析・仮説の分析・今後の戦略の3つを加えて流れを作り出す。これも原理・原則である。

情報の構造化と物語の構築は、以前なら情報カードやポストイットに言葉を書き込み、いろいろに並べ替えて構想を練るという方法が行われていた。メモリツリー(マインドマップ)やアウトラインプロセッサはそれに変わるもので、並べ替えが非常に簡単に行える。

意見は十分な根拠に基づいて主張しなければならない。根拠が不足していると、自分勝手な意見と思われ、相手は首を縦に振らない。事実ばかりを並べてしまったら、「で、どうしたいの?」と相手を困惑させることになる。両者のバランスが重要だ。そして、自分の意見とそうでないものを明確に分けることも必須である。このバランス取りと区分けが物語構築の原理・原則といえる。

新聞記者やジャーナリストに限らず、他人の意見を自分のものであるかのように書くのは御法度だ。しかし意識していないと、その境界が曖昧になりがちでもある。主観と客観の区別や配分に、佐々木氏はWZ EDITORの色づけ機能を使っている。斎藤孝氏の三色方式と似ている。引用部分の行頭に「>」を付けて、ピンクで表示する。自分のコメントを書いた行は「#」を付加して、緑で表示する。ピンク(客観・事実・他人の意見)と緑(主観・自分の意見)をきちんと区別し、バランスよく配分する。

ここまで書いた自分の文章を読み返してみると、どうにも論拠に乏しい。それは情報収集と集約のプロセスが十分でないからである。本を読んだだけで書くとこうなる。もしこのブログをブラッシュアップする場合は、佐々木氏の本から該当箇所を引用したり、提案書やトラブル報告書の例を挙げたり、文章作成について説いた本について言及したりすることが必要だろう。

(本ブログの関連記事)
「分けて考える」という原理・原則
http://raven.air-nifty.com/night/2007/02/post_ca1a.html

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2009年10月 8日

該非判定パラメータシートの「省令」「別表第一」とは何か?(輸出関連法令の構造)

該非判定パラメータシートを書き始めると、「省令」や「別表」といった言葉がたくさん出てきて戸惑う。いったいこれらはどの法令のどの部分を指しているのか。

どの法律でも同じだと思うが、法律→政令→省令と階層を下るに従って、より具体的に規定するようになっている。パラメータシートを書くうえで最低限おさえておかなければいけないのは、「輸出令」と「外為令」という2つの政令。そして経済産業省の省令である「貨物等省令」だ。これらは略称であり、それぞれの正式名称は「輸出貿易管理令」「外国為替令」「輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令」である。法令の条文は経済産業省・安全保障貿易管理ホームページ法令データ提供システムで参照できる。なお引用した内容が、法改正などで執筆時と変わっているものがあるので注意してもらいたい。

最初に要点をまとめる。

・輸出令は「貨物」を規制し、外為令は「技術」を規制する。
・「別表第一」は輸出令の別表第一であり、貨物を定義している。
・「別表」は外為令の別表であり、技術を定義している。プログラムも技術である。
・それぞれの詳細仕様は貨物等省令で定義されている。

細かく見ていこう。まず輸出令の第一条はこうだ。

第一条  外国為替及び外国貿易法 (以下「法」という。)第四十八条第一項 に規定する政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第一中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。

この政令が「貨物」を規定することと、詳細は別表第一に定めるということが書いてある。そして別表第一を見ると、九項の下欄は「全地域」であり、中欄は以下の通りである。

次に掲げる貨物であつて、経済産業省令で定める仕様のもの (一) 伝送通信装置又はその部分品若しくは附属品(一五の項の中欄に掲げるものを除く。) (以下略)

伝送装置関連であり、その仕様は経済産業省令を見よと述べている。ちなみに第一条の条文を読むと、外為法第四十八条は詳細を政令で規定するとしていることがうかがえ、実際、第四十八条は「貨物」に関する条文であり、「政令で定めるところにより」と書いてある。

第四十八条  国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

次に、技術の規制である外為令第十七条は次のとおりである。

法第二十五条第一項第一号 に規定する政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造又は使用に係る技術を特定の地域において提供することを目的とする取引は、別表中欄に掲げる技術を同表下欄に掲げる地域において提供することを目的とする取引とする。

やはり、この政令では技術を規制することと、詳細は別表で定めるとしている。なお以下のように、外為法第二十五条第一項第一号は「技術」を規制する条文である。

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造又は使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の地域において提供することを目的とする取引

外為令の別表で伝送装置に関連するものは九項である。

(一) 輸出貿易管理令別表第一の九の項の中欄に掲げる貨物の設計、製造又は使用に係る技術であつて、経済産業省令で定めるもの

つまり貨物(ハードウェア)である伝送装置を使うために必要な技術(プログラムを含む)はここで規制されるわけである。輸出令別表第一と同じく、仕様は省令を見よと述べている。

輸出令と外為令が指し示している経済産業省令が貨物等省令である。第八条と第二十一条がそれぞれ貨物と技術の仕様を規定する条項である。

第八条  輸出令 別表第一の九の項の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。 (以下略)

第二十一条  外為令 別表の九の項(一)の経済産業省令で定める技術は、次のいずれかに該当するものとする。 (以下略)

IT機器のほとんどはソフトウェア(OSやファームウェア)をハードウェアにインストールして機能を実現している。したがってそれを輸出するときには、ハードウェア(貨物)とソフトウェア(技術)の両方についてパラメータシートを記入し、輸出許可を得なければならない。このことは、弁護士法人リバーシティ法律事務所の「ロボットの輸出規制」という記事でも解説されている。

たとえばプログラムがインストールされたロボットを外国に輸出する場合には、原則としてロボットという「貨物」の輸出の許可とプログラムという「技術」を提供することの許可の双方が必要だということがあげられます。

(関連ページ)

経済産業省・安全保障貿易管理ホームページ
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/

法令データ提供システム
http://www.e-gov.go.jp/

ロボットの輸出規制
http://rclo.jp/blog/report/cat03/post_136.html

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日本の輸出規制と該非判定パラメータシート

前回の記事では、アメリカの輸出規制で使われる略語、とくにECCNについて書いた。この記事では「該非判定パラメータシート」について説明する。なおリンク先の内容が、法改正などで執筆時と変わっているものがあるので注意してもらいたい。

■該非判定パラメータシート

「該非判定パラメータシート」は、日本の輸出規制に照らし合わせて、当該製品が輸出規制品に該当するか非該当であるかを判定するためのチェックシートである。たとえば、高速電子計算機をテロ支援国に輸出してしまうと、高性能ミサイルや核反応炉の設計を支援してしまいかねない。これを防ぐのが輸出規制の目的のひとつである。

輸出規制品目に該当するものは輸出できないと誤解している人をたまに見かける。輸出規制は、輸出するものが規制品目に該当しているかどうかを明確にし、輸出先が適切であるかどうかを確認・管理するものである。たとえば輸出規制品目に該当する高度技術でも、アメリカに輸出する場合は特に問題なく許可が下りるだろう(注)。同じものを北朝鮮に輸出する場合は不許可となる可能性が大だ。

このような誤解のため、「非該当」になるようにパラメータシートを記入してしまう人もいるようだ。パラメータシートは製品の技術仕様を記入するものだから、正確に書かなければ虚偽申告になってしまう。

パラメータシートを書けるのは製品仕様に精通した技術者である。法務担当者は書き方のアドバイスをしてくれるかもしれないが、内容は技術部門もしくはプロダクトマネジメント部門が書くことになるだろう。法務部門では書けない内容である。

(注)アメリカに輸出するときに許可が不要というわけではないことに注意。許可が不要な特例を除き、輸出には当局の許可が必要である。特例は法令で定めてあり、特例に該当するかどうかを判定する様式がパラメータシートにある。

■ECCNの品目

さて、アメリカの本社からECCNは既に手に入っているとする。ECCNに該当する品目は「The Commerce Control List」のSupplement No. 1に書いてある。たとえばネットワーク機器のECCNが5A991bだとする。最初の桁「5」がカテゴリ番号である。

Category 5 (Part 1) - Telecommunications(U.S. Government Printing Office)
http://www.access.gpo.gov/bis/ear/pdf/ccl5-pt1.pdf

カテゴリ5は「TELECOMMUNICATIONS AND “INFORMATION SECURITY”」(通信と”情報セキュリティ”)。5A991は「Telecommunication equipment, not controlled by 5A001」(通信装置であって、5A001 で規制されないもの)である。5A991bの「b」は5A991のb項であり、次のように書いてある。

Telecommunication transmission equipment and systems, and specially designed components and accessories therefor, having any of the following characteristics, functions or features:
伝送通信装置及びシステム、並びにこれらのために特別に設計した部分品及び付属品であって、次のいずれかの特性、機能又は特徴を有するもの:

(注)翻訳はhttp://www009.upp.so-net.ne.jp/kgm1_ear/から引用

■日本の法令

上で調べたECCNが日本の法令で何に該当するかを調べる。IT機器はおおむね次のページの「8 コンピュータ」か「9 通信関連」に入っている。

輸出貿易管理令別表第1(Cグループ)(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/kanri/sinsa-unyo/gaihihanntei-tejyun/yusyutsu-betsu1/y7-15.htm

5A991bは次の分類に該当する。

別表第一の項9(1)
輸出許可品目名:伝送通信装置
省令:8条一、8条二

(注)「別表第一」「省令」については別途説明する。

■該非判定パラメータシート

パラメータシートは財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)が販売している。上で調べた輸出許可品目に対応するパラメータシートを購入する。「8 コンピュータ」は「パラメータシート<コンピュータ>」を、「9 通信関連」は「パラメータシート<通信・情報セキュリティ>」を使う。

書籍・出版物(CISTEC)
http://www.cistec.or.jp/publication/index.html

ようやくパラメータシートまでたどり着いた。このあとは製品仕様を調べて、それぞれの項目にチェックマーク(レもしくは×)を付けていく。カタログで分からない仕様がほとんどである。本社の開発部署やプロダクトマネージャから頑張って聞き出すしかない。

(関連ページ)

EARのダウンロードページ(U.S. Government Printing Office)
http://www.access.gpo.gov/bis/ear/ear_data.html

経済産業省・安全保障貿易管理ホームページ
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/

財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)
http://www.cistec.or.jp/

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アメリカの輸出規則(基礎中の基礎知識)

不要になったり故障したりした製品をアメリカの本社に送り返すとき、「輸出」をすることになる。ベンダーに勤めていると、運送会社や販売代理店から「該非判定パラメータシート」を要求される。私が独学で勉強した範囲で、必要最小限の知識をまとめてみようと思う。間違いが含まれているかもしれないので、ダブルチェックしながら読んで欲しい。少なくともいろいろな情報のとっかかりにはなると思う。自分で調べることで輸出管理についての理解も深まる。

アメリカのベンダーの場合、製造したものを最初に輸出するのはアメリカの本社である。したがってアメリカの輸出規則をおさえておかなければいけない。略語がいくつか出てくるから、まずそれを覚えよう。在日米国大使館商務部のWeb「アメリカからの輸入ビジネス情報」がわかりやすい。

■EAR
米国輸出規則 - Export Administration Regulations (EAR)

■CCL
規制品目リスト(CCL: Commerce Control List)。EAR対象品目のなかでもセンシティブなもの。

■ECCN
CCLにリストされている品目には、規制品目番号(ECCN: Export Control Classification Number)がついている。

■EAR99
CCLに載っていないEAR対象品目は、EAR99というカテゴリーに分類される。商務省のライセンスなしで輸出可能な場合が多くあるが、輸出先が制裁国やテロ支援国の場合はライセンスが必要な場合あり。

■ECCNの分類(一部)

カテゴリー4  コンピュータ
カテゴリー5 通信・暗号
全リストは http://www.access.gpo.gov/bis/ear/ear_data.html の「Category ~~」

グループ(抜粋)
A 装置、組み立て品、部品
D ソフトウェア

たとえば、コンピュータ機器なら4A994、伝送機器なら5A991、ソフトウェア製品なら5D002といったECCNを持っている。

製品のECCN番号は、本社が輸出ライセンスを商務省から受けたときにドキュメントをもらって管理しているはずだ。本社のどの部署の誰が輸出管理を担当しているかをなんとかして見つけ出す必要がある。

ECCNがわかったら、次に日本の法令に基づいて「該非判定パラメータシート」を書く。これは次の記事で説明する。

(参考)

U.S. Export Control   米国の輸出規制
http://www009.upp.so-net.ne.jp/kgm1_ear/

輸出貿易管理(貿易アドバイザーが整理する貿易実務用語の知識体系)
http://blog.goo.ne.jp/bizloop/e/9162c6ac84c9186024f16d9feb9df001

アメリカ商務省のBureau of Industry and Security
http://www.bis.doc.gov/policiesandregulations/index.htm

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2009年6月15日

「拙速」なアメリカ流

「後付け」「対症療法」というと、やってはならないことというニュアンスをだいたいの日本人が持っているだろう。物事を進める前に、想定される事態を十分に考慮に入れ、水も漏らさぬ計画を立てた上で実行すべしという意識が日本のビジネスマンや企業には強い。いったんやり始めたあとで問題が出ることは許されない。

シリコンバレーのIT企業はまるで反対だ。スピードが最優先である。問題が出たら、そのときに対処すればよい。やってみないと分からないこともあるので、走りながら考える。失敗したら、それは経験を蓄積したと考え、次に活かす。いざとなれば、裁判で決着すればよい。会社のやり方が自分に合わなくなったら転職すればよい。会社というコミュニティから離脱するだけだ。

結果として、アメリカのやり方は初動が速い。開始時のコストは少なくてすむ。しかし問題が出ると、それを解決するためのコスト(訴訟も含めて)があとからかかってくる。なかなか結果が出なければ、傷が深くならないうちに撤退する。「拙速」である。

日本流は初期コストがかなりかかる。そして立ち上がりは遅い。初期にかかったコストを回収するために、安易に撤退することはできない。会社に所属しているから、そう簡単に辞めるわけにはいかない。定年まで勤め上げれば高額の退職金がもらえる(はず)。粘り強く・忍耐強く・細く長くという、日本で美徳とされるやり方が求められる。

日本で販売代理店を立ち上げるときには、とにかく準備と資料が必要だ。価格表やカタログ、製品マニュアルは当然だが、販売マニュアル、トラブルシューティングマニュアル、製品マニュアルに出ていないような技術仕様など、ありとあらゆるものを用意してようやく、じゃあ売りましょうということになる。書籍である、当該分野のことならその本を見れば何でも分かる。学校の教科書といってもいい。

アメリカの販売パートナーだったら、必要なものはその都度担当営業に要求したりテレカンをやったりして、とにかく素早く動いて結果を出そうとするはずだ。しかし、走りながら考えるアメリカ流では、情報共有に難がある。必要の都度メールや電話で確認しているから、情報がまとまらない。まとめる人もいない。そこで出てくるのがポータルだったり検索エンジンである。社内に散逸している情報を一元的に閲覧したり探し出したりできるようにする後付けの仕組みだ。

もちろんこれは非常に単純化した見方であるし、どちらが優れていると言うつもりはない。何事も両極端はダメだ。周りの状況によってアメリカ流にスピードに比重を置いたほうがうまく行く場合もあるし、日本流に慎重にやった方が効果的な場合もある。中間のどこかに解がある。しかもその解は不定なのである。それでも、一方のやり方しか知らずに無意識にそれをやってしまうのと、両方のやり方を知ったうえで最適なやり方を考え出すのと、変化の激しい世の中にどちらが向いているかは明らかである。

ちなみに「拙速」はネガティブな文脈で使われることが多い。この文章でアメリカ流儀を「拙速」と書いたのはその意図からだ。しかし広辞苑に「兵は拙速をとうとぶ」という用例が出ているし、孫子の「巧遅は拙速に如しかず」という言葉もある。必ずしも忌むべき言葉ではないのである。

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2009年2月18日

マニュアルを超えた顧客対応

2009年2月17日放送の「プロフェッショナル仕事の流儀」(NHK)で、羽田空港の主任航空管制官・堀井不二夫氏が取り上げられた。パイロットの気持ちに寄り添いながら指示を出す彼の仕事に、多くのパイロットたちが信頼を寄せる。「共に、空を飛ぶ」というキーワードを番組は使っていた。

例えば、十分離れていてニアミスの恐れもないので、本来は何も告げる必要のない近くの航空機の存在をひと言添える。これによって、「あなたをしっかり見ています」というサインを送っているのだ。これはマニュアルを超えた対応である。若い航空管制官が、堀井氏の背中を見てそのスタイルを学んでいた。

「日経コンピュータ」が毎年行っている顧客満足度調査で、マニュアルを超えた対応が必要とされている(2008.8.15号)。顧客満足度を向上させる取り組みが各社に浸透した結果、通り一遍の顧客対応は標準化・マニュアル化されて、そこでは差が付かなくなったし、顧客はそれ以上を常に求める。

顧客の心をつなぎ止めるにはどうすればよいのか。顧客と接する担当者一人ひとりが本当に顧客の身になった対応をするしかない。(中略)マニュアルや顧客の想定を超えるところから、次のCS向上運動は始まる。

マニュアルを超えるということは、あらかじめ想定して体系化することもできないということである。一人ひとりがその場の状況に応じてで創造的に対応する必要がある。社員教育でこれを身につけさせることができるだろうか。難しい課題だが、堀井氏の姿を見ていると、OJTで密に指導すれば可能であるとも思える。

しかしその一方で、個人の資質はどうしても外せない要素であるとも思う。番組が追いかけていた若手航空管制官は、自分から堀井氏に指導を仰いでいた。こういう積極性は必須であろう。さらに、自分の考えをしっかり持ちつつも、新しいことを吸収する頭の柔らかさも必要だ。そして創造力。マニュアルを超えた対応も、ひとたび定式化されると陳腐化してしまう。その次を常に模索し、問題意識を持って作り出していく姿勢が欠かせない。

マニュアルを超えた対応ということは、言い換えればルールを破っているとも言える。「日経コンピュータ」の記事で、ある自治体で起きたサーバのハードディスク障害のエピソードが紹介されていた。

東北地方のK市の情報システム担当者は国産大手メーカーの「マニュアル外」の対応に惚れ込んだ。
(中略)
そのときなんとメーカー技術者がサーバーを横倒しにした。するとサーバーは無事に起動、データの救出にも成功して事なきを得た。「さすがプロ。マニュアル外の技を持っている」と担当者は称賛する。

どの程度勝算があってやったのだろうか。うまくいったからいいようなものの、二次障害を起こしていたら、とんでもない無茶をやったと責められるかもしれない。勝てば官軍という面はある。マニュアルを超えた対応は、常に未知の新しい領域である。多少の失敗を責めるか、それとも今回はうまくいかなかったがいい取り組みだったと褒めるか。上司にもそれに応じた素養が必要なのかもしれない。

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2009年1月17日

筆記療法

ネガティブな感情をうまく処理する方法に、「筆記療法」というものがあるそうだ(注)。

経営者向けのコーチング事業を手がけている野村総合研究所の永井恒男IDELEAチーム事業推進責任者は、次のように語る。「ネガティブな感情がたまってきたとき、何を感じているかを紙に書き出す。文章は論理的でなくてもいい。すると、次第に感情が冷静になってくる。だんだんと何が問題で、自分はどう行動すべきなのかが見えるようになる」。筆記療法の効果を心理学的に検証している書籍に「筆記療法」(発行は北大路書房)がある。

実はカバンの中に秘密のノートを一冊入れている。書いているのは、他の社員に対する不満だったり、ユーザやパートナーに対する文句だったり、とても人には見せられないようなものである。これが実は筆記療法になっていたようだ。ちなみに、筆記具は万年筆を使う。すらすらと出てくるインクや、その濃淡の変化を見ていると、心が落ち着く。

以前、布団の中に入って電気を消しても、ユーザ先の重大トラブルのことが頭から消えず寝付けなかったときがある。このままだとユーザ業務やパートナーのビジネスへの影響が甚大だ、あれをやってみるといいかもしれないが、うまくいかないかもしれない、他の手は何があるかといったことを考え出すと、どんどん頭が冴えてきて、気がつくと2時を回っている。思い切って起きて、不安なことや解決のためのアイディアなどをメモ用に一気に書き出してみたら、頭の中がすっきりしてすぐに眠れるようになった。これも筆記療法なのだろう。

飲み屋で同僚に上司の不満を愚痴るのと似ているが、自分だけでできる点がよい。他の人に自分のネガティブ感情をぶつけるのは、仲間意識を醸成する効果がないとは言えないが、あまり生産的ではないし、そういった発言は意外なところで批判対象本人の耳に入るものだ。一見同情しながら聞いている相手も、いい印象を持たないだろう。

(注)「日経コンピュータ」2009年1月15号「特集3 感動するチーム」囲み記事

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2008年12月20日

ITエンジニアの格好悪い姿勢は理にかなっている

PCを使っているITエンジニアはだいたい同じ姿勢である。尻を椅子の前方にずらし、机の下に下半身を潜り込ませるようにする。足は前方に投げ出す。いかにもだらだらと仕事をしているように見えるが、意外と理にかなっているようだ。

アメリカのPC販売台数で、初めてノートPCがデスクトップを上回ったそうだ。しかしこれは背中や首、肩にとってあまりよくないことだと、Wall Street Journalの記事が警鐘を鳴らしている。人間工学の専門家のアドバイスによると、コンピュータを使うときには次の点に気をつけなければならない。

  • モニタは目の高さに置き、背もたれに寄りかかれるようにする。
  • キーボードは肘の高さにおき、肘を曲げた角度が90度かそれ以上になるようにする。下腕はアームレストで支える。

しかしノートPCをテーブルにおいて使うと、たいていの場合キーボードが高すぎる。内蔵ディスプレイは位置が低すぎ、首を前に曲げてのぞき込むようにしなければならない。このため背中にストレスが溜まる。最初に書いたITエンジニアの姿勢は、体に負担をかけないようにと、自然にそうなってしまったわけだ。この姿勢なら、目線とモニタの高さを近づけ、肘の角度を90度以上にできる。

一番いいのは、外付けディスプレイとキーボード、そしてマウスを使うことだ。Wall Street Journalの記事からいくつか抜粋する。

  • マウスはなるべく体の近くに置くとよい。手が体から離れれば離れるほど、腕に負担がかかる。
  • キーボードを肘の高さに置くということは、テーブルの少し下に置くということになる。テーブルの下に取り付けるキーボードトレイを使う。
  • 液晶モニタを目の高さまで上げるためには、ノートPCスタンドを使うという方法もある(個人的には、ハードディスクを傾けた状態で使用するのが気になるが)。

2点目については、塩澤メソッドのように腿の上に置く方法も同じ効果がある。

(2009/12/11追記)
肘の角度を90度以上にしたり、モニタを目の高さにしたりするという点は守った方がよいが、「尻を椅子の前方にずらし、机の下に下半身 を潜り込ませるようにする。足は前方に投げ出す」姿勢は腰によくないようだ。しばらく腰がのだるさに悩まされていたのが、この姿勢をやめてぴたりと止まっ た。別の記事に書こうと思う。

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2008年12月18日

一次情報に当たる

小寺信良氏が、一部の新聞記者は一次情報を自ら確認せず、別の報道をもとに記事を書くと苦言を呈している。

比較するのはおかしいかもしれないけど、コラム書きの僕でも、合っても居ない人の拾ってきた発言を「記事の中心に据えて書く」なんてことはしないよ。ジャーナリストなら、自分で一次ソースに当たってコメント貰ってくるってのが、当たり前なんじゃないの?

「新聞記者の記事が、それでいいの?」より
http://blogmag.ascii.jp/kodera/2008/10/09225650.html

ビジネスの場でも、一次情報に当たることは非常に重要である。話者の主観に基づく細部の誇張・割愛はざらにある。人は自分の都合のいいようにしか話を聞かない傾向があるから、情報が一部欠落したり歪曲していたりすることもある。

話者のボキャブラリ不足が原因の場合もある。例えばこの文章の最初で「小寺氏が苦言を呈している」と書いた。このほかには「懸念を示している」という表現も使えるだろう。ところが、こういった表現を使いこなせない人は、「腹を立てている」「怒っている」という直截な表現に安易に飛びついてしまう。「苦言を呈する」と「腹を立てる」では、読み手の受ける印象は大きく異なる。私が読むかぎり、小寺氏は腹を立ててはいないと思うのだが、いかがだろうか。

ユーザ先でトラブルが起きているときは、「大騒ぎになっている」「クレームがすごい」「製品を突っ返すと言っている」などという刺激的な表現の連絡を受けることがよくある。もちろん、業務に少なからぬ影響が出ているのだろうが、代理店や営業担当者が中間に入っている場合は特に、話に尾ヒレが何枚も付いている可能性がある。トラブル対応の優先度を上げてもらおうとして、意図してか、あるいは無意識のうちにか、誇張した表現を使っているのだろう。私自身もそうしたくなる衝動に駆られることはあるから理解できる。

それでも、どこかで状況を客観的に冷静に把握しなければいけない。トラブルが大きければ大きいほど、慌てず騒がす、冷静に対処するようにしている。アメリカの本社にエスカレーションするときは、なおさら具体的に話をする必要がある。クレームがすごいというのは、具体的には何件くらいのクレームが来ているのか(問題の発生頻度はどのくらいか)。製品を突っ返すというのは、本当にユーザが言った言葉なのか。ほかの製品にリプレースすることも考えなければならないという可能性を示唆しただけではないのか。

一番いいのは、一次情報にあたること。つまりユーザに直接話を聞くことである。ベンダーを連れてこいと言っているのであれば、願ったりかなったりである。喜んでユーザを訪問して、本当の温度を測るようにしている。もしユーザと直接会話できない場合は、具体的な数字を中間に入っている人に聞き出すなど、客観的に判断できる情報を集めるように心がけている。

トラブルシューティング事態も一次情報が非常に大切だ。サポートエンジニアなら誰でも心がけていることだと思うが、ログやエラーメッセージで現象を確認する。再現手順をステップバイステップで確認するなど、客観的な情報を積み上げていくことが解決の第一歩である。ユーザや代理店が言ったことを、証拠を集めながら検証していくわけである。人の言うことを100%信用してはいけないと言っても言いすぎではないだろう。人は自分の都合のいいようにしか物事を見ないし、自分に都合の悪いことは自ら進んで言わないのだから。

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